明暗

 偶然だが、昨日と今日二人の方が相次いで退院した。しかし明暗ははっきり分かれていた。  昨日退院したのは90歳のおばあさん。お嬢さんが報告に来てくれたのだが、報告は悲惨なものだった。何のために入院したのだろうと思ってしまう。そもそも入院したのは腰が痛くて歩きにくいというものだった。トラブルと言えばそれだけで、90歳を越えているのに病院の薬はほとんど飲んでいない。要は腰以外は元気なのだ。娘を僕の薬局に来させて骨粗しょう症漢方薬を2週間分ずつ持って帰る。ところが40日前にもっと歩けれるようになりたい一心で突然入院した。病院は当然リハビリをしてくれるが、薬もくれる。90年近くまともに薬など飲んだことがないくらい元気な人なのに、まず麻薬に近い鎮痛薬が二つ出た。枕が替わったので寝付きにくかったから睡眠薬が出た。痛みが2つの強い薬を飲んでも効かなかったので、抗ウツ薬が痛みを止めるために出た。そうしているうちに胃が悪くなって胃酸をかなり止める薬が出た。病院で寝てばかりいるのに血圧が上がり血圧の薬が出た。じっとして動かないから足がむくむようになって利尿薬が出た。コレステロールが高いからその薬も出た。麻薬性の鎮痛薬のために便秘になって自力では出なくなったので下剤も出た。そうそう、リハビリ以外動かずにベッドで寝ていただけで、筋肉がどんどん落ちた。免疫が落ちたのだろう帯状疱疹にもなってその薬も出た。極め付けは、そのヘルペスの薬を飲んでから、気持ち悪くなって食事もとれずに無気力になった。そこで先生が「退院してもいい」と言ったそうだ。普通は元気になって退院するのだと思うが、今回はそれ以上悪化するのを防ぐために退院させられたのだ。家族は病院を責めはしなかったが、悔しい思いは隠すことが出来ない。おばあさんは僕への伝言で「全然よくならない」といつも言っていた。ところが左側の痛みは入院するまでに治っていたそうだ。改善したところはなかなか皆さん評価してくれず、不満ばかり口にしているとこんな結末になる。  もう一人はこの逆だ。入院してよかったとつくづく思う。病院からの帰り道を寄ってくれたのだが握手を求められた。お父さんに連れられての退院だが、お父さんも嬉しそうだった。入院直前の人格を失っていたかのような状態から、しっかりと落ち着いて話も弾む。入院前は病院を掛け持ちし、同じような薬をそれぞれでもらって、混乱しきっていた。少しの不調で病院を頼るから、医師もいわれるままに処方して、薬の副作用を又薬で治そうとし、そのまた副作用を次の薬で隠そうとする。主訴は始め1つだったのに、入院直前には病気のデパートだった。結局40日の入院でしたのは、いかに無用の薬をから離脱できるかの訓練だった。その結果多くの薬から解放されて、嘗てのように意思疎通が出来る状態に戻っていた。人格を破壊されたのは病気ではなく、親切心で出された薬のせいだ。  大病の場合、大きな有名病院にかかるからおおむね安心だ。それ以外に選択肢がないこともあるが、やはり知力、技術、設備などが集約しているところだ。ただそこから下のレベルの場合は正直、いい加減なところも多い。いい加減なところにはいい加減な病名が集まるが、本当に必要な治療か、薬か、調べたほうがいい。そもそも人には自然に回復する能力が備わっているから、何でもかんでも病院や薬で治すのではなく、備わった力を導き出す努力をしたほうがいい。今回おばあさんを診てくれたお医者さんはとても人格者で、多くの人に慕われている。それでも善意が過ぎればこのような結果をもたらすことがある。病気は薬で治るが、老化は薬では治らない。労働と運動と栄養と、どさくさに紛れて、ヤマト薬局の漢方薬