天地創造

「今までもらった薬の中で初めてのヒットじゃ」と電話の向こうでいつものように減らず口を叩く。2週間くらい前に出した湿疹の薬が良く効いたのだろう。娘が東京で習ってきた処方でもう5,6年ヤマト薬局の主力商品だ。僕の薬局では、製薬会社が作った皮膚病の薬を使うことはめったにない。自家製だから半額くらいで作れる。  話はそれたが、初めてのヒットと言いながら、もう10年以上僕の薬局を利用してくれる。会社の社長だから忙しくて常には来れないが、郵送を含めると毎月必ず僕の薬を手にしていることになる。それなのにあの減らず口は・・・、実は彼の大きな武器なのだ。  建設会社を経営している部類の人とあまり仲良くなりたくはない。なんとなくその向こうに関わりたくないような人たちがいそうな世界だから。ただ彼の場合は決して「うまいこと」を言わない。カーブと見せかけて直球をいつも投げている。その逆は信頼できないが、自然体で投げる彼のそのボールはちゃんとグローブに収まる。  正直言うと、恐らく彼が僕の薬局を利用していなかったら、とうに済んでいるだろう。今頃あの世でトランペットを吹いているか、クラッシックギターを弾いていただろう。エネルギーの塊のような人は、元気すぎるがゆえに人生を突っ走ってしまい、一瞬にして終わってしまう。それを僕は阻止する役目を辞任している。決して感謝されることはないが、貴重な性格の建築業者だから失うにはもったいない。  ダンディーを気取っても決して似合わないが、あのときの手の湿疹では、商談にも差支えがあっただろう。きれいにしてもらったから礼のひとつでも言えばいいのに、暴投もいいところだ。そんな彼の招きで再来週ジャズのコンサートに行く。一緒に行くのが法務省に出張を2度もした男だし、招くのが暴投投手だし、演奏者はN響の人だし。もう天地創造だ。