寝すぎ

 半年くらい前から時々やって来るようになった老夫婦。自家製の紫雲膏が気に入ってくれて、信頼を勝ち得たのかもしれない。  今日の要望は、1時間毎に目が覚めるのを治してと言うことだった。その都度おしっこにも行かなければならないから大変だそうだ。それはそうだろう、寝た気がしないとはこのことだ。ただ不眠を訴えてくる人のほとんどは既に病院の薬を飲んでいるから、そのことを尋ねてみた。するとマイスリーの10mgを既にもらって飲んでいる。これで眠れないのに薬局自家製の催眠剤2号で効く筈が無い。無駄な出費をさせたくなかったので正直にそのことを伝えた。でも何とかしてと食い下がってくるから、仕方なく漢方薬で、マイスリーの効果を少し高めてあげようと思った。でも、なんとなく引っかかる。老人の訴えとは裏腹に「元気そうで、幸せそう」なのだ。もう少し辛そうな雰囲気を漂わせてもいいはずなのに、すこぶる快調そうだ。  そこで矛先を変えて、奥さんに質問をしてみた。「御主人は寝れない寝れないって言うけれど、本当に眠れない?」と。するとやはり眠れないで困っていると言う。ただ、夫婦が来たのが12時前だったのに、「今朝2時間くらいテレビを見ながら寝とります」と、とんでもないことを教えてくれた。「昼からもたぶんテレビを見ながら寝るじゃろう」とも付け加えた。「なんじゃこりゃあ!」  恐らくこうした問診も無く、病院では眠れないと言う訴えだけで簡単に薬を出しているのだろう。余りにも無神経だ。脳に作用する薬をそんなに簡単に飲ませていいのだろうかと思う。本来脳は薬など入れないところなのに。そこで御主人には正直に薬は出せないし、出す必要もないことを伝えた。「御主人、6時間以上寝ようなんて大それたことを考えたらいけんよ。昼寝だけでそれに近いくらい寝てるんじゃから、運転が好きなら朝から夕方まで車で家から出とかれえ(出ていなさい)」これが僕の結論で、当然漢方薬も作らなかった。日本の老人「寝すぎじゃあ!」