寿命

 テレビも洗濯機も、冷蔵庫もオーブントースターも、電話機も車も、Tシャツもジーパンも、すべて使えなくなるまで使っているのに、このものの寿命だけは異様だ。尋常ではない。理解に苦しむというか、理解できない。何で現代科学の先端を走っているものがこんなに寿命が短いのだろう。何故そのことを誰もが受け入れ、誰も異を唱えないのだろう。そう言えばこのものに関しては、あの怪しげな「エコ」と言う言葉さえ聞かない。さすがに当事者も気が引けるのかその冠は今のところ使っていない。  機械の調子がおかしいから思案しているところに、ある家族連れが来た。何の根拠もなく僕が「パソコンに詳しい?」とお父さんに尋ねたら、なんとシステムエンジニアだった。その方が言ったパソコン寿命が衝撃的だった。思わず声を上げたが、その数字を受け入れるのに一呼吸必要だった。僕ら素人が使うような機種だったら5年、プロ集団だったら3年くらいで新たに買い換えるそうだ。機械に慣れるのに5年くらいかかりそうな僕にとってはとんでもない短い年数だ。最初から壊れるのを前提に作っているとしか思えない。何年もかかって「イトカワ」まで行って帰ることが出来る機械を作る能力があるのに、何で卓上に鎮座している機械が数年で壊れるのだろう。もうこうなればいいがかりに近いかもしれないが、この分野で長く使える機械を作ることこそ、本当のエコではないか。  プロの人に実情を教えてもらったので、諦めがついて早速娘が今夜買いに行った。量販店からこの値段でいいと電話してきたが、そんなにする値段で又数年で壊れるのかと釈然としない。なんだか全く希望のない買い物をしているようだ。ニュースでは、指で動かすと本がめくれるような機械を買って飛び上がったりしている場面をやたら見せられたが、僕は買い物をしてあんなに楽しめたことはない。ほとんど買い物の後は悔いを残す。買い物下手というのもあるかもしれないが、本当は買い物嫌いなのかもしれない。  倹約家ではない。けちでもない。只価値が分からないのだ。時代の先端を走ったり、便利の中に埋もれたりすることの。開発者や販売業者に聞いてみたい。「人の心より精密機械の方が壊れ上手でどうする」と。