舞台

「お薬ありがとうございました(^O^)お陰で頑張れました!学校頑張れてます!コワい時も寂しい時も不安な時も多々あるけど、でも生きてるな―って思えて気持ちいいです。6月に舞台で歌うんです。ドレス着て。一人で。心臓、吐きそうなくらい今から緊張してます(泣)でも、それを希望したのは自分なんです。出とけば良かった‥って後悔したくなかったのと、大勢の人達のあの緊張感の中で、勉強した事を何処まで伝えられるか試してみようと思いました。だんだん今を過ごせるようになってきて、充実していて凄く幸せです。今日は授業終わって友達と沙美海岸?で初めての釣りをしました!楽しかったです!!最初は今の学校も辞めようとしたけど、辞めなくて本当に良かったです。この学校の、この友達に会えた事も本当に感謝です。まだやっぱり人の多い静かな場所は恐いけど、少しずつでもそんな恐さも忘れるくらい正直に前だけを見つめていられるようになりたいです。」

 この子が突然やって来たのは何年前だたっけ。制服姿でやって来た。学校には行けないから家を出て電車やバスを乗り継いで僕のところにやってきたのだ。ダンスが好きで、レッスンだけは受けていたらしい。その種の大学に行きたくて過敏性腸症候群を克服したがっていた。受験を始め、色々なここ一番で僕を頼ってくれて、次第に過去のトラウマから脱皮していった。僕はその成長過程も見せて貰えた。まるで自分の娘のようにその過程を喜んだ。悲しいとき、不安なとき、でも逆にこのように克服して達成感に浸ったときも報告をしてくれる。もしこの子がずっとあのまま人を怖がり引きこもっていたらどうだろう。一人の大切な人格が実を結ぶこともなく下草のように隠れていたらどうだろう。家族は勿論、将来に渡って巡り会うはずだった人達の損失だ。そして何よりも本人が辛すぎる。才能をいかす場すら得られずに、毎日天井や液晶画面を眺めて足踏みした時間をもてあますのが人生だとしたらどうだろう。  30数年前、僕も同じような理由で同じような行動を取った。緊張の余り心臓が痛いということを初めて味わった。不安で物が食べられないのも知った。だけどその一瞬にかけたおかげで僕は大学時代を不毛から救った。唄がなければ僕は一介のパチンコ打ちでしかなかった。拙いけれど詩も書き曲をつけ青臭い表現を聴衆にぶつけた。唄は僕が唯一僕を残せた砦みたいな物だった。それがなければ、僕は僕である必要はなかった。  今彼女が同じ冒険をしようとしている。どんなステージになろうと失う物はなにもない。きっと大きな拍手をもらい青春を生きた証を心に刻むだろう。歌い終えた彼女にはきっと生活の中でも新たな舞台が用意されるだろう。