色黒

 幼い時から色白で、蛍光灯などと兄からあだ名を付けられていたから、未だコンプレックスの筆頭にこのことがある。 「一気に黒くなったね」とカウンター越しの男性に僕が言う。本当にこの数日で別人のように日に焼けている。元々色黒の人だから、僕のように赤くはならない。それこそ格好良く焼けている。「それはそうじゃろう、暑くなったから」と例年と同じ変化に特別の感慨はない。寧ろ彼の方は色黒を恥じているのだ。この時期の紫外線は真夏より強いとも言われていて、毎日海に出ている漁師たちには見かけ以上のダメージがある。見かけは黒く日焼けして力強く見えるが、倦怠感にさいなまれる時期でもある。若い漁師ならいざ知らず、一歳とれば避けられない。余程体力がある人は別だが、自然の恵みと自然の負荷とを天秤にかける。 色白は七難を隠すと言うが、僕の場合一難さえ隠してくれない。今まで得をしたことがない。必要以上にひ弱に見えて、僕が作る薬が如何にも効きそうにない。ああ、この薬を飲めばこんなに元気そうになるのかと期待させるものは何もない。下手をしたら自分が飲んで元気になったらと言われそうだ。ただ世の中良くしたもので、ひ弱にはひ弱の仕事があり、元気には元気の仕事がある。もっと言うと、ひ弱にはひ弱の人生があり、元気には元気の人生がある。両者が存在するから陰陽のバランスが取れていて、行け進めの号令ばかりが響くこともない。足を引っ張る存在がないと、何事も太く短くになってしまう。細く長く長らえることも大切だ。消えていい事ばかりではない。存在し続けることも貴重な力なのだ。瞬発力では語れない人の営みは多い。 色白で、筋肉なしの冷え性。若さでごまかすことも出来なくなったから、相手にはますます優越感を持って貰える。だから今まで以上に相手を幸せに出来る。コンプレックスでもなにでも利用できるものは皆利用する。後ろを向いていても前に進むことは出来るのだから。