無意味

 3車線道路の一番外側を走っていた。元々混雑する道路でもないし、日曜日の昼下がりだから本来ならすいすいと走れるところなのだが、何となくゆっくりとしか進まなかった。そのうち真ん中の車線を走っている車がやけに僕の車の前に入ってきた。僕は車間をかなりとるほうだから入って来るには便利なのだろう。そのうち前方に救急車が止まっているのが見えて何となく理由が分かった。交通事故で渋滞していたのだ。パトカーも2台見えた。 事故現場にかかるとまず追突された跡がある車が見え、次にそれに追突した、前方がかなり破損している車が見えた。そしてその車の歩道寄りに倒れているバイクが見えた。それと不思議なことに、そこから10メートルくらい離れた所で後部と側面がかなりへこんだ車が真ん中の車線を塞いでいた。3台の車がどの様にオートバイまで巻き込んで起こした事故なのか分からないが、特にオートバイに乗っていた人の無事を祈らずにはおれなかった。 一度はバイクに乗っていて後ろからまともに軽トラックにぶつけられ宙を飛んだ。むち打ちにずいぶんと苦しんだ。もう一度は、軽トラックの側面にぶつかり指の骨を折った。どちらも30年以上前なのによく覚えている。その教訓は、被害に遭わないこと以上に加害者にならないことに生かしたいと思った。取り返しがつかないことはしてはいけないと言うごく当たり前の発想だが、人の身体は本当に取り返しがつかない。有機物は再生不能だ。恐らく誰もがそうだろうが、もっとも不運で無意味な出来事として交通事故を上げるだろう。何一つ得るものがない最たるものだろう。どんな言葉を持ってしても何一つ意味あるものを見つけることは出来ない。悪意には支配されない最悪の加害なのだ。  たった1秒で人生が変わる。たった1秒のせいですべてを破壊しすべてを失う。倒れたままのバイクが変形していなかったのがせめてもの救いだった。