免許

 子育て中に僕は絶対しないことを二つ決めていた。それは飛行機に乗ることとオートバイに乗ること。言い換えると事故では死ねないということだ。病気など仕方がないことならまだ諦めもつくが、防ぐことが出来ることで命を落とすことは許されないと思った。オートバイでは2度事故にあっている。いずれも被害者だったが、片や骨折で片や鞭打ちで、3回目は危ないと思ってオートバイは止めた。オートバイといっても原付バイクで、それも中古だったからよほどお金もなかったのだろうが、中古の車が買える様になるのを待って止めた。  高山から先輩達が来て、お酒を飲みながら歓談しているときに、酔った勢いでほろっと出たのか、息子がオートバイの免許を持っていること、一時通勤に使っていたことだ。恐らく僕が遣り残したことを先輩達に話していたときだと思う。ただ、息子がその時に言った言葉が印象的だった。「あのまま乗っていたら命が危ないと感じた」と言うのだ。車を抜き去るオートバイを見ながら、僕は羨望のまなざしを送っていたが、その言葉を聞いて一気に今までの我慢が正しかったのだと思った。  もう大人だから、いちいち親にお伺いを立てる必要がないから自由なのだが、息子は船の免許まで取っているという。「板切れ一枚下は地獄」と前島フェリーの船長が言っていたことがあるが、せめてプロ並の危険予知能力は身につけておいてほしいものだ。  もうそんなに家族の中では役に立てない僕だから、飛行機でもオートバイでも口車でも何でも乗れるが、責任を持たされている世代は、少しくらい臆病でもいい。