封筒

 何処にしまっておこうかと迷ったあげく、信州のあるお母さんが下さった素敵な木箱の中にしまっておくことにした。たいして大切なものを持ってはいないので、A4くらいの面積、高さ数センチの箱一つで十分収まる。ひょっとしたら僕の人生の全てがその箱の中に収まってしまうのではないか。それくらい凡人の足跡なんて小さいのだ。  それでも何となく折角書きためたのだから残しておきたくなった。内容はともかく持続していることだけでも残しておきたくなった。パソコンの知識に関して全て依存している商工会の方がある時、ブログに書き続けている内容は何かにコピーして保存しておいた方がいいですよと教えてくれた。一度書いたら基本的には読み返さない主義だからどうでも良かったのだが、最近嘗て作った唄を鍼の先生に頼まれて引っ張り出したとき、せめて作ったものだけでも僕自身の生の証としてとっておこうかと思ったのだ。集めたり、買ったりしたものではなく、空っぽの頭をフル回転させて作ったものくらいは人並みに大切にしたり、懐かしんだりしても良いのではないかと思ったのだ。誰に残すのでもなく、読み手にはなり得ない僕自身のために残そうと思ったのだ。  さてその作業は想像しただけでも肩が凝って頭痛がする。もっとも僕の苦手とするところだ。頭も体もついていかない。そんな時ふと頭に浮かんだ女性がいて、依頼したら快諾?してくれた。気の毒だからゆっくりでいいよとお願いしていたのに、ずいぶんと早くやってくれ、わざわざ届けてくれた。若いから何ともないのかも知れないが、僕の技量から推測するとやはりどれだけ大変だったろうと申し訳なく思う。と言いながらとても嬉しかった。僕のホームページとブログの文章が経時的に1枚のCDに収載されていた。  残念ながら僕の能力では言葉で幸せを届けることも出来ないし、悲しみを消すことも出来ない。ただ一瞬ふっと力が抜けてくれれば十分なのだ。笑っているときの至福の脱力感。あの瞬間を漢方薬で模倣し続けている田舎薬剤師の、宛名のない色あせた封筒なのだ。