矢面

 笑いながら教えてくれたが、解決するまでは笑顔など出なかっただろう。会社としてはとんでもないことをしてくれたと思いながらも、信用を失墜させないために懸命だったに違いない。矢面に立たされた人物はどうやら彼ではないらしいから、リポーターなみの雄弁さで教えてくれたが、あってはならない、ありそうな話だと思った。  昔ながらの何でも屋さんの薬局はほとんど絶滅危惧種だ。残っている薬局の名前を辿ってもなかなか片手が埋まらない。成績不振で跡継ぎにそっぽを向かれ廃業の道を辿るのが一般的だ。何とか踏ん張っていた薬局の店主が、年齢は分からないが、30年前の薬をまだ後生大事に持っていたのだから、少なくとも僕くらいか、僕よりは上だろう。何か特別な薬、それも古ければ古いほど価値があるようなものならいざ知らず、単なる頭痛薬で30年前のものとなると、何でも鑑定団の世界だ。当時はピリン系の薬が主だったから本来ならよく効くはずだが、どうやら効かなかったらしい。さすがに30年も経てば劣化するのだろうか。製薬会社は10年やそこらは現物を保管して経時変化を調べるらしいが、そしてほとんど実は問題ないらしいが、さすがに30年は観察していないだろうからデータを持っていないだろう。頭痛薬みたいな簡単な薬でも効かないのだから、年月には勝てないと言うことか。買わされた人が外箱のシミで気がついたのか、薬自体の変色で気がついたのか分からないが、怒りが収まらなかったのだろう。何で警察か分からないが、さぞかし警察から電話がかかってきた製薬会社は驚いただろう。  当事者の薬局は恐らく捨てるのを躊躇うほどの経営状態だったのだと思う。もったいない文化の日本人の美徳では説明できない。  折しも日本人の7割が生活に満足しているという内閣府の発表があったが、その数字には違和感を覚える。何しろ決して食べてはいけないものを安全と言い続けている国の資料なのだから。