1億円

 全くの素人だが、こんなニュースに触れるとなんてことだろうと思ってしまう。非正規とか派遣とかと呼ばれる雇用形態の人の割合が、4割近くに達するのだそうだ。意図してその形態を選択している人は別として、時代に翻弄されて余儀なくされている人達の苦労はメディアで伝えられ憤りすら感じる。  20歳~60歳まで働いた場合の正社員と派遣社員生涯賃金の差はなんと約1億円だそうだ。差が1億円とはどう理解すればいいのだろう。最低限生きていくために必要なお金など両者にそれほど差はない。食費が数倍かかるわけでもないから。その差1億円は、生きていくだけと、人生を楽しむとの差なのだ。生活するだけの人と、生活し余力で人生を楽しむのとでは天地の差だ。生きていくだけなら動物でも出来る。いくつもの感動を重ねるのが人間の生き方だ。その資金は前者には与えられない。  ひたすら利便的な労働を提供しながら、享受するものはいたって少ない。そんな都合の良いことが許されていいのだろうか。彼らは市民であって安全弁ではない。パッキンがすり減った安全弁ではない。苦労はいくつかの喜びで穴埋めされなければ拷問でしかない。喜びはいくつかの苦労で導かれないと傲慢でしかない。  冬空に凍えようと、一人部屋の中で凍えようと、凍てつく心に差はない。何の温もりもなくて春を待てよう。