約束

 やっと約束が果たせてほっとしている。岡山教会で知り合った女性達は、牛窓工場で働いている人達ではない。僕との唯一の接点は教会にお互いが属していると言うことだけだった。月に一度行われるかの国の人たちだけのミサに参加している異邦人の僕にその女性達は親切で、遠慮気味の僕をいつも輪の中に入れてくれた。  彼女達と話していて気がついた。牛窓工場の人達に比べて、あまりにも行動範囲が狭いのだ。そして折角の日本滞在なのに、働くことと休息することしかしていない。休息は働くことの補完物だから、ほとんど働いているだけだった。それでは折角の日本滞在が、いや青春がと言ってもいいかも知れないが、もったいなさ過ぎる。そこでいつものように僕は発作的にいつかどこかを案内すると約束してしまった。そしてそのチャンスが正月中に訪れたのだ。  得意のコースをいくつか提案したら、姫路城を希望した。もう何組か連れて行っているので僕自身の為に、今までとは違うコースを加えたかった。そして見つけたのが「太陽の国」と言うテーマパークだった。内緒にして出発したから、山頂にそびえるドイツ風の城を見つけたときの歓声はすごかった。そして城内で僕にとっては食傷気味に次から次へと現れるトリックアートを、ポーズをとりシャッターを押しと、いつものように時間を止めて楽しんでいた。おかげで石でできた歴史的建造物のエリアは、急ぎ足で、見たという実績だけを残す羽目になった。それだけ城での時間を楽しんだことになる。  僕も年齢を忘れて・・・・・楽しむはずが無い。ただ、少なくとも知り合ってしまった集団が、牛窓に偶然派遣された人達より圧倒的に、喜び少なく帰国していくのが辛かったので、その差を縮めることができたのではないかと思っている。長時間そこで過ごした後、姫路城に回ったが、雪が舞う中、暑い国の人たちは冷たい風を我慢しながら、城と雪の両方を楽しんでいた。