絵画

 僕の好きな光景がある。それは毎週日曜日に見られる光景なのだ。  お子さんの年齢から想像すると見かけよりは若いのかもしれないが、体格のよいお父さんと小学4年生の女の子が教会のミサにやってくる。お母さんの姿が見えないから、きっとお母さんは信者ではないのだろう。日本では別に珍しいことではない。家中でクリスチャンという方が寧ろ珍しいのではないかと思う。教会のミサが終わると、きっと近所なのだろう、その親子は歩いて帰る。何故か知らないが、僕が車に乗って帰ろうとしてある信号にかかると、必ずと言っていいほどその親子が横断歩道を渡っている。背筋を伸ばしたお父さんが先に歩き、お嬢さんがうつむいたまま後ろを歩いている。いつもお父さんは堂々と、いつもお嬢さんはうつむいて渡っている。父親が娘とおしゃべりをしながらというのはあまり得意ではないだろう。教会でもいつも並んで腰掛けているが、会話をしている光景は見ない。実直そうなお父さんと、はにかみ屋のお嬢さんの心温まる沈黙は、10数年前の僕を思い出させる。  人生で一番充実しているときはやはり子育ての時期だったと思う。懸命に働き、ちょっとしたことを喜び、ちょっとしたことを心配した。全てが子供達を中心に回っていた。横断歩道を渡るお父さんの背中には、お嬢さんの全てを感じる感知器がある。前を歩いていても全てを感じる愛情がある。細心の注意を払って無関心を装い、危険から守りながらも立ちはだからない。お父さんの堂々とした態度に守られて教会から帰る姿が、まるで絵画のように僕には見える。