活断層

 天性のものなのか、お節介もここまで来るとプロフェッショナルだ。漁師町のあるおばさんは、軽四自動車にお年寄りを詰め込んで、峠を2つ越えてやってくる。もうそろそろ漢方薬が切れているはずだと目星をつけて、連れてきてくれる。お茶を飲みながら簡単な問診をして、いざ薬を作り始めると、近くのスーパーに連れて行ってあげる。お年寄りは足がないから、普段の買い物もままならない。貴重な機会なのだ。薬が出来上がりそうな時間帯にみんなを引きつれて帰ってくる。会計をすますまで、地元のうわさ話で盛り上げる。片時も話し声が途切れることはない。お年寄りもある内容では聞き手で、ある内容では話し手になる。この辺りの間合いが非常に上手だ。「ポイントカードをおばさん押してもらって」と、最後の仕上げまで気を配る。  東北の地震の報道を見ていてこのおばさんを思いだした。インタビューに答える人達の素朴な言動が、激しい被害と比例しない。とげとげしい言葉は聞かれずに、自然と共に生きてきた人達の温厚ななまり言葉に救われる。海に住むおばちゃんと、山に住むおばちゃんの違いはあるだろうが、きっと共同体の接着剤のような存在で、口から生まれたような巧みな会話をしながら傷心の心を癒している人がきっといるに違いない。いくら活断層でも大地は割けても、人の連帯は割けれないだろう。