空中ブランコ

 市の国保委員会というのに出席した。数字の行列になかなか素人はついていけない。職員が説明してくれるが僕の頭はブロッキング状態だ。経理に全く疎い僕は委員と言う肩書きを返上したいくらいだ。出来れば委嘱してくるときに数字に強いかどうかくらいは確かめて欲しかった。僕なら喜んで辞退するのに。  分からないままに衝撃的な数字だけが頭に残った。後期高齢者国保税率を試算する例として、色々な収入パターンで試算していた。おおむね納得できるのだが、その中で、一人家族、給与収入が年98万円、或いは一人家族年金収入年24万円などというのがあった。いったいどうやって暮らしているのだろうとすぐさま思った。田舎だからほとんどは持ち家だろうが、それでもこの収入ではやっていけない。貯蓄が沢山ある人なら可能だろうが、又遠くの子供達が仕送りをしてくれるのなら可能だろうが、そんなに条件が整っている人ばかりではないだろう。  僕はこの国を今は豊かな国とは思っていない。嘗てその様な幻想に国民が浸っていた時代もあるが、さすがに身の回りの光景を見るとその幻想から冷めない人は少ないだろう。車はひっきりなしに走り、海外に旅行客をジェット機は運び、マグロは地中海から遠路運ばれるが、一度健康を損ねればホームレスにまっしぐらだ。社会を懸命に一員として支えてきた人達のセーフティーネットは貧弱だ。庶民を、まるで安全ネットなしで空中ブランコをさせられるような国が豊かだろうか。みんなで生きようではなく、生きて見ろと言われているような感じだ。衝撃的な数字の向こうに孤立した市民が、交錯することなく夢遊病者のように徘徊しているイメージがわく。悲しいことにそれを高いところか眺めている人達もまた見えてしまう。