ちりめんじゃこ

 僕が薬を作ってお世話をしているのに色々教えられることは多い。 腰と首にヘルニアを持っている女性を1年くらいお世話している。旅行に行けるほど調子が良くなったので、やっと皮膚病の薬も一緒に飲めると本人が強く希望するので、掌蹠膿疱症の治療も同時進行することにした。掌蹠膿疱症は皮膚科で薬をもらっていたが、あるテレビ番組で奈美悦子という女優が同じ病気で悩み、皮膚病だけでなく身体の痛みで悩んだという話を聞いて、恐ろしくなって早く治したくなったらしい。僕は今まで10人くらいの同じ皮膚病の人を世話してきたが、迂闊にも掌蹠膿疱症で、痛みの病気が出るとは知らなかった。実際その方も胸の骨が痛かったらしい。骨から肉をはがされるような感覚と教えてくれた。今までお世話した掌蹠膿疱症の方にそんな訴えをする人はいなかった。いないと言うより、僕にその答えを誘導できる問診力がなかったのかもしれないが。    掌蹠膿疱症漢方薬を2週間渡した。2週間後に薬が切れる頃電話をしてきた。受話器を取った瞬間から何か良いことが起こったことが想像ついた。そのくらい声がいつもと違って明るかった。あれだけの、例えば時計を見るために顔を上に上げれない、電話がかかっても受話器を取るのに苦労する等の生活の不便、苦痛を抱えていれば明るい声も出ないだろう。打って変わった弾むような声で、身をちぎられるような胸の痛みや腰首の痛みが劇的に改善したことを教えてくれた。薬を飲み始めて4日目に突然楽になったらしい。今までの自分では考えられないくらい立派なウンチが、掌蹠膿疱症漢方薬を飲みだして出始めたらしい。腸の免疫を整えるためのものが奏功したのかもしれない。痛みの薬は全く使わない。皮膚病が治るための物だ。ところがそれですっかり痛みが取れて、いつもなら郵送する薬を自分で車を運転して取りに来た。勿論手を見ると皮膚病変もずいぶんきれいになっていた。  田舎の小さな薬局の、たった一つの経験だからこれが普遍的な意味を持っているのかどうかは分からない。それを確かめる手段もない。だけど縁ある「普通の人」が元気になればそれでいい。お嬢さんが京都で開いているお店のちりめんじゃこを土産にくれた。とても美味しかった。美味しい心で頂いたから余計美味しかったのかもしれないが。