電話機がヒタヒタと歩く音を拾う。時々切れた息も伝わる。家路を急ぐ若い女性から電話をもらう。僕が訪ねたこともない大都会の夜、貴女は、眠らない商店街を通り抜けているのか、それとも幹線道路から抜け静かな住宅街の小道を歩いているのか。  声は文字に体温を与える。鼓動も加える。表面ではなく奥行きも出る。想像力も離陸する。人格が形成され感情が往来する。幸せ色の声と共に、生きる力が伝わってくる。不調を克服して、もっと高く飛び上がって欲しいと思う。動物だった頃の自然治癒力を信じて、消えた星を探しながら歩いてほしい。すれ違う風に頬をたたかれても、夢見ることを怠らないで、夜は雄叫びを封印して貴女の帰りを待っているのだから。