最悪の日々

あるお母さんへ  何も言ってこないのは困っていないから、これは貴女が息子さんに関して想いを致すときに似ていて、僕も貴女に関して同じ事を思っていました。昨日満を持して電話を頂いたのも、1学期を無事過ごすことが出来たことを喜び、もう大丈夫だろうという希望の陰で見え隠れする又いつか来るかもしれない再発の懸念を払拭したかったからではないですか。僕は貴女の話してくださった内容にいちいち自分の青春を重ねていました。僕を含めて多くの凡人は、それなりの逃げ道を用意しておかなければ身が、いや心が持ちません。だから真面目すぎる潔癖な人に対しては、僕は頑張ることより頑張らないことを勧めます。放っておいたら無限に頑張ってしまうのですから。気力体力の保証がない果てしない道は自滅への道です。僕は多くのその種の青年を見てきましたから、得ることより失うものが大きすぎる孤軍奮闘には賛成できません。大学に入って彼が連絡をしてこないこと、そのくせ2個のサークルに入ったりバイトをしていることなどを聞いて、やっと力が抜けた彼を思い安堵しました。いわゆるごく普通の青年の列に又帰っていったのです。授業はさぼり、法律に触れない程度でいたずらをする。それが青春期ではないでしょうか。僕は彼を救ったのはお母さんだと思っています。連絡方法をメールから電話に変えたのも、恐らく僕に情報を多く与えようとしたからだと思いますし、学生時代超劣等生で過ごしても何とかなるという実例を僕に見て、貴女が息子さんに寛容に接してくださったことが大きかったのです。貴女の熱意こそが彼を救い出したと言っても過言ではありません。朝から襲ってくる腹痛でのたうち回ったことは、彼の人生に大きな財産になります。他者の痛みを理解することが出来るし、救いの手も差し伸べることが出来るかもしれません。失った歳月の何十倍も彼はより深い時間として取り返すことが出来るのです。今日も昨日も、受験生などから悲鳴が届きます。ただ残念なことに親の僕に対する不信や子供の苦しみに対する無理解などで彼らに応えてあげることが出来ない場合が多いのです。そう言えば何故貴女がこんな田舎の薬局を少しでも信用してみようと思ったのか不思議ですが、貴女の高いところから飛び込むような勇気が彼を救ったのでしょうかね。1度だけ彼と電話で話して好感を持ったと言う僕の印象に「俺は人によく見られるのは得意」と言った彼の自己分析を時々思い出します。本当は得意ではなく、周囲に気を使って生きてきた、生きていくだろう彼を良く表していたのではないでしょうか。実は今日から娘婿が薬局に参加してくれます。朝からこうした返信を打てるのもそのおかげです。僕もどちらかというと貴女の息子さんに似たタイプですから、これから再び学生時代のように「最悪の日々」を心がけようと思っています。貴女も久々に手にした自由を楽しんでください。主婦の鏡ではだめですよ。 ヤマト薬局