呼び込み

 さて、明日からどの様にして時間を潰そうか。山に芝刈りに行くか、川に洗濯に行くか。それとも人生でやり残していること2つ(オートバイの免許を取ることと俳優になること)に挑戦しようか。それとももっと大きな夢を実現しようか。例えば政治家になって消費税をべらぼうに上げ庶民を苦しめるとか。 僕の気力体力が衰え始めたのを察したらしく、娘の婿さんが勤めていた薬局を辞め明日から僕の薬局で働いてくれることになった。昔ながらの薬局でよかった頃は、自分の土俵で相撲を取っていたから、仕事は楽しいしやりがいも感じていたが、今は仕事の半分は病院の薬を作ることに費やされている。だから創造的な仕事ではなく、間違えないようにと緊張を強いられる仕事になっている。そうした緊張感の元の仕事では自律神経の調子を狂わせ、色々な体調不良を経験させてくれる。なんとも言えない不快感と表現した方がいいかもしれない。  娘夫婦はその道を修行してきたから得てている。でもそれだけでは創造的な薬局にはなり得ないので、漢方薬も一般の薬(OTC薬)も使いこなせるオールラウンドプレイヤーになって欲しい。僕がいればどうしても皆さんが僕を指名しがちなので意図的にどこかに消えていようと思ったりしている。消えるとなるとパチンコ屋か玉野競輪かくらいしかないが、鉛筆を耳に挟んで競輪場界隈をたむろしようか。  恐らく明日からは、漢方薬を作るのに専念することが出来るだろう。うさんくさい漢方専門などと言う標榜は決してするべきではないが、作業のもっぱらを漢方薬作りに費やされるかもしれない。頼ってきてくださる人達のためにも、又娘夫婦のためにも役に立ちたいと思っているが、決して出しゃばらない為に、ブレーキに足はいつもかけておこうと思っている。  働き者ではないがよく働き、不真面目だが真面目に働いてきた。続けることをもっとも苦手にしていたが、休むことすら許せない自分がいた。一番避けていた職業に自分は合っているのではないかと気がついた。何かを求めて働いていた記憶はない。がむしゃらに目の前の方に立ち向かっただけだ。地域の人の寛容に実績で返したかっただけだ。 テーブルや椅子を試みに動かして僕の居場所を作ってみるが狭い薬局でぴったり来るところはない。こうなれば薬局の前に出て呼び込みでもしようか。「らっしゃい」「らっしゃい」と。