女優

 ゲゲゲの女房で少しはその世界のことが分かったのだが、漫画家の世界も一部の売れっ子以外は大変な世界なのだ。スポーツなど、いやあらゆる分野で言えることではあるのだが。  昨夜相談に来たお母さんも、そんな大変な世界に足を踏みいれている娘を持っている。お母さんにとっては、娘が成功することより病気にならないことの方が関心事だ。事実昨日も部屋に引きこもりがちになりながらも漫画家を諦めない娘のことで相談に来た。取り立てて体調不良は感じないが、心が追いつめられていることは母親の説明で分かる。かく言う母親もとてもデリケートな心の持ち主で、僕の漢方薬の実力を伸ばすことに多大の貢献をしてくれた人なのだ。自律神経失調症などという言葉がまだ使われていなかった頃から、まさにその素質に苦しんだ方だ。僕は彼女の訴えの通り漢方薬を作り、何が効き、何が効かないかを実地で確かめた。教科書などでは分からない微妙なさじ加減が勉強できた。  「自分が、その様な性格だからお嬢さんが追いつめられて苦しむのも分かる。遺伝だわ。その繊細な性格が漫画に活かされるのだから仕方ないな」と言うと「似なくてもいいところが似るね」と言い古された返事が返ってくる。「自分もその繊細さで今から何か挑戦したら?」と言うと、「今更何も出来ないわ」と言うから「微妙な心を表現する女優になればいいじゃない」と言うと「女優なんかなれるわけがないじゃないの、結構体力がいるらしいよ」と何で覚えたのか知らないが体力勝負を強調する。そこで僕はこう答えた「体力の前に顔でふるいにかけられるだろう」  ああ、又漢方ファンを一人失った。