淡泊

 郡部に行きたい高校はなかったので下宿して都市部の高校に通った。受験校だったので好きでなかったが一応勉強していた。そのせいで牛窓時代の出来事や同級生のことは忘れてしまった。たまに街であっても何の感慨も起こらず声もかけなかった。   大学生活は自分でも予期せぬくらい落ちこぼれたので、毎日が空虚すぎて、カレンダーを消しゴムで消す様な生活だった。努力という言葉が一番無かった時代だ。それなりに頑張っていた岡山時代のことはそのせいで忘れた。  結構、性にあうと思っていたサラリーマンに採用の時から躓いて、仕方なく牛窓に帰ってきた。性に合わないとずっと思っていた薬局を継いで、ひたすら期待に応えようとして本を読みまくり勉強会に出まくった。おかげで、劣等生だった頃を忘れて、目の前にいる相談者に集中できた。期待に添えなければ申し訳ないので仕事に熱中した。今でもそれが続いているので、過去のことを思い出して懐かしんだりすることはない。たいしたことはしていないが、大切なことは今なのだ。薬を作った人が効くのか、効かずに裏切るのか。結果は昨日ではなく必ず明日やってくる。  特別な生き方が出来るわけではない。どこにでもある生き方だと思うが、振り返ることが下手だったおかげで、後悔はほとんどしていない。つかんだものが少なかったおかげで失ったものも少ない。執着する過去がないからしがみつく明日もない。無能を淡泊と勘違いして生きていけるから落ちるところまで落ちないですむ。これも又良し。