温暖化の影響もあって、冬を越すのはそんなに難しいことではなくなった。エアコンのスイッチをいれるか、温風ヒーターの点火スイッチを入れればすむ。部屋の中は瞬く間に温かくなって、薄着になり靴下を脱いでも過ごすことが出来る。もはや冬は越すものではなく平坦に過ぎ去るものなのだ。  しかし、それはあくまで普通の生活水準にある人達のことで、やはり昔のように命がけで冬を越さなければならない人達もいるのだ。まだ秋なのに朝方は10度を切る。とても寒くて戸外では寝れないし、段ボールでは熟睡も出来ないだろう。手を差し伸べる人の手はとても温かいが小さい。善意は強いが弱い。天にも届くような摩天楼の下で、地を這う人々が虫けらのように横たわる。富は川を下ることなく、どこかのダムでせき止められている。いやいや、川はすでに逆流しているのかもしれない。