マラソン大会

 大きなマラソン大会に出場する選手の母親が、栄養剤を買いに来た。大会まで飲ませるらしい。ドーピングに引っかかるかどうかを調べて、ある液体の薬をことづけた。1週間前のことだ。今日は、その日に飲むといい栄養剤を2本買いに来た。ドーピングには引っかからないが、この親心はまさにドーピングだ。たちの良いほのぼのとしたドーピングだ。その母親曰く、「親としてはこのくらいしかできませんから」。試合の日にそれを持って応援に行くらしい。「このくらいしかできませんから」と言う心の距離が大切なのだ。近すぎてもいけない、離れすぎてもいけない。子育てで成功している人を見るとこの距離感が適度に保たれている人のような気がする。母親には母親の、父親には父親の距離感がある。いやいや、話を広げると、祖父母、兄弟姉妹、学友、社会の構成人すべてを含めた距離感が大切なのだ。この距離感が失われたときに、子供が持っている能力は引き算され、精神は混乱する。  この距離感は、天性のものとして身につけている人も多くいるが、もしその種の才能に恵まれなかったら、努力と忍耐で手に入る。その二つ無くして後天的には難しい。親を優先しないこと。それにつきる。簡単なようで難しいから、その二つが必要なのだ。成人するまで、それを続けられれば宝物を手に入れることが出来る。どんな物差しでも測ることは出来ないが、心が通うって、人間として最も基本的な幸せを手に入れられる。  2本の栄養剤を大切に持って帰っていった母親を見ていて、こんなことを思った。