寒暖計

 自分はどんな性格なのと尋ねたら「小心者だと思います」と答えた。言い当てているのかどうか僕には分からないが、あたかもそれがマイナス面のような印象を持った返事だった。ただ撲に言わせれば恐らく彼女の最大の長所のような気がした。長い時間話して、聡明さや礼儀、謙虚さなどは十分うかがい知れたし、父親の話をするときの楽しそうな表情でとても大切にされていることも容易に想像がついた。彼女がこの春から就く職業はそれこそ繊細さが要求されるものだろうから、小心を繊細に置き換えれば打って付けの職業かもしれない。  日々多くの人と話をしていて、同じようなケースに巡り会うことがある。今のように気が小さいことは繊細につながるし、臆病は用心深いにつながる。ずぼらは寛容につながるし、ハンディーは理解につながる。何もかもに恵まれ、何もかもが備わり、何もかもに勝りでもしたら、恐らく何も持っていないのと同じになってしまうだろう。  今朝草むらで遊ぶ1羽のヒヨドリと10羽くらいの雀を見た。群れから離れたヒヨドリと至近距離で同じ仕草で何かをついばんでいた。ヒヨドリがちょいと飛んで場所を移せば雀たちも従って又同じように場所を移した。争いもせずあたかも先生に引率された生徒のようだった。しばらくその光景に見入ったが、何も優らず、何も劣らず在る姿は寒暖計よりも雄弁だった。