目的

美しい国を作りたかった人が辞めた。美しい国を作りたかったら、百姓や漁師を大切にして欲しかった。都会にすみ、多くを消費する人に、美しい国はつくれない。生まれた時から将来を約束されたような人に、人の心は分からない。想像は出来ても理解は出来ない。人の心がわからなければ美しい国は作れない。  いやいや待てよ、そもそも美しいというのは、下々が口にする場合と、持てる人達が口にする場合は違うのだ。下々が言う場合は「分かち合う」ということだし、持てる人達は「分け与える」なのだ。労働の対価に金を与えられ、倒れないように休日を与えられ、文句を言わないように娯楽を与えられる。乾きに水を、空腹にパンを与えられる。生きているのではなく、まるで生かされているみたいだ。  決して豊かでない町で僕は仕事をしている。空は青く、海は鏡のように光っている。段々畑の上で老人が腰にぶら下げたタオルで汗を拭く。美しい国は目的とするものではなく、そこにある光景を壊さないことだ。