景色

 今日、ある方がメールで写真を送ってきてくれた。澄みきった青空の下に雄大に広がる雪を頂いた連峰。手前に地方都市を思わせる点在するビル。この景色ははっきりと覚えている。瀬戸内の穏やかな景色の中で育った僕は、自然のもつ険しい美しさにしばし見惚れたものだ。ただその景色は鮮明に覚えているが、いつの記憶か分からない。僕はその町を何回か訪れた。季節もまちまち、同行した友人もまちまちだ。一人で訪ねたこともある。  その町を訪れるのは、先輩を訪ねる為だ。僕と争うほどの劣等生だった彼は、1年僕より早く卒業した。柄にもなく就職して、社会人の仲間になったのだから辛いだろうと、ちょこちょこ訪ねていってあげてたら、結構社会に受け入れられて、幸せそうにやっていた。実は、学校に残った僕のほうがさみしかったのかもしれない。農機具をしまっておいたという小屋を借りて先輩は住んでいた。雪が積もった冬のある日、その小屋に泊まったことがある。どうやって暖を取ったのだろう。石油ストーブくらいは持っていたのだろうか。それともホームこたつのなかにもぐりこんでいたのだろうか。凍りつく夜が明けて喜んだことも思い出した。 なにの目的もなく、その日その日が過ぎていけばよかった。先は見えなかったし考えもしなかった。ただただ、流されていただけだ。時間は残酷なくらいあった。もて余すことにも疲れるほどあった。それは青春が終わりを告げようとしていたのだ。創る事が苦手で壊すことばかりが得意だった青春に別れを告げようとしていたのだ。  その後何年してこの景色を見たのか分からない。ただ一つ言えるのは、青春に別れを告げる前には決して見ていないと言う事だ。いつもうつむいて道路に落ちている孤独を拾い集めていただけだったから。