賄賂

 かの国の話ではなく、その国の話だ。ただ内容がとてもよく似ていたから驚いた。どちらがより程度が低いのか分からないくらいだが、こんな話を聞かされると一度は行かなければと思っていた気持ちが一気に萎える。  ある女性がスマホの画面を心配そうに見ていたからどうしたのかと思っていたら、家族が交通事故にあって入院したと言う連絡をもらったらしい。夜歩いていたらオートバイに跳ねられたらしい。怪我の状態をスマホで送ってきているのだが、顔が傷だらけで痛々しかった。当然「加害者はどうしたの?」と日本の場合と同じような質問をしたら「ニゲタ」と言った。そしてそこからその国の事情を教えてくれたのだが、聞いていて怒りがこみ上げてきた。  相手のナンバーを見ていないから自分では見つけられないこと。警察には届けないこと。怪我をしても朝まで我慢していたこと。救急車は呼ばないことなどを教えてくれたのだが、その理由が腹立たしい。まず怪我をしても朝まで我慢していたのは、救急車を呼んでも来ないからなのだそうだ。いつ来るかもしれないものを待つよりは、通りがかった人に運ばれるのが普通だそうだ。そして警察に言わないのは、警察官は賄賂をもらうためスピード違反などの取調べばかりして、事件の犯人探しなどしないからなのだそうだ。これを聞いて、警察官を信用して殺された外国での話などを思い出した。かの国でもその国でも、そうした理由で警察官になっていることを承知しておくべきだと思った。  一番適した言葉だと思うし、それ以外に漏らす言葉がないから僕の口から何度も出た言葉は「なんてこった」だ。あきれて物が言えないが、あきれても物を言う。ひどすぎるにもほどがある。長年腐っていた国だからこのような後遺症が延々と続くのだろう。まあ世の中には、大統領に異を唱えて殺される人間が続出する国もあるのだから、そして決して国家の犯罪だから暗殺者は捕まらない国があるのだから、警察官が小遣い稼ぎにいそしんでもかわいいくらいだが、そこで暮らす人間達はたまったものではない。そんな人間でも全うに人生を送ることができるのは、幸運すぎる。そんな人間に訪れる幸があってはいけない。ところが、ところがだ、そういった人間ばかりが得をする構図を作り上げたい輩がどの国にもいて、この国にも下々をもっと疲弊させようとしている奴が再登場している。高音で喋り、顔がむくんだ男だ。