風邪

県外で働いている娘の同僚の知り合いが、風邪をひいたらしい。中年男性だ。最初市販の薬を飲んだが回復しなかったので、開業医に行った。そこで抗生物質と風邪薬をもらったらしいが、2日後に急死した。この冬の話だ。ある時娘と電話をしている時に「お父さんはどう思う」と尋ねられた。何でも血糖値が異常に高かったらしい。別にアレルギーでショックを起こしたわけでもなさそうなので、「お父さんには分からないから、お兄ちゃんに尋ねてみたら」と答えておいた。  もうその話は忘れていたのだが、昨夜娘から他の用事で電話があり、「あの件についてお兄ちゃんに聞いてみた」と教えてくれた。兄は娘の疑問にすぐ答えてくれたらしい。恐らくその男性はお酒が好きな人で、急性膵炎を起こしていたのだろう。それを風邪で処置してしまったのではないかと言うことだった。ことの真意は分からないが、息子が即答したことに娘も驚いたらしいが、その話を聞いて僕も驚いた。数年で僕を追い越すとは思っていたが、もう十分越している。  息子も貴重な挫折を味わった。その挫折が多いに彼を成長させてくれた。順風満帆の人生を子供には願うが、そんなに調子よく全てが運ぶはずがない。挫折を知らない人間の冷酷さは際立っている。悪意がなければなおさらだ。うまく運んだ時ほど謙虚にならなくてはならないが、それは至難の技だ。凡人に出来ることではない。だからいつも心にほんの少々の不安と悲しみと孤独と劣等感を持っているのがよい。