不経済

 熱心と言えば熱心なのだろうが、不経済な気もする。人それぞれだから僕がとやかく言う筋合いではないのだが。 ニキビの治療に父と子が来た。帰省中の男子大学生とお父さんだ。ニキビだから見ればどの様な漢方薬が効くかすぐ分かる。背中や胸にもあるのではないかと尋ねたらやはり沢山出ると答えたからそんなに治すのは難しくないと感じた。ここまではよくある話だが、それでは作って下さいというので、何日作ろうかと尋ねたら3日分作ってと言われた。さすがの僕もニキビで3日分は驚いた。僕は漢方薬と言えども薬だから飲めば50分で効いてくるといつも答えている。と言うのは多くの所で漢方薬はゆっくり効くから長い間飲まなければならないと洗脳されている人が余りにもいすぎるので、その作られた思い込みをなんとか打破したいと常々思っているからだ。でもせめてニキビなどは2週間くらい効果の判定に時間が欲しかった。しかしその父親はどんな薬でも最低容量しか持って帰らない人だから、ニキビと言えども同じように考えたのだろう。 3日分漢方薬を飲んだら、赤味が少し減ったらしくて又3日分取りに来た。3日分を数回繰り返した後、息子が中部地方にある大学に帰るから1週間分作ってと言った。その後1週間分ずつ父親が取りに来てマンションに送ってあげていたらしい。僕は効いているのか効いていないのか心配だったので、本人から連絡をとってもらうように頼んだ。すると昨日息子さんが初めて連絡をくれた。聞くと飲んでいる間は見る見るニキビが減るそうだが、止めると又復活しそうになるので父親に頼んでいたというのだ。症状を詳しく聞いて処方に工夫をすべきだと気がついて、新たな薬を送ることにしたが、そこで初めて息子さんが1週間分ずつだと不便だと言った。それはそうだろう、その為かどうか分からないが、1週間分がだいたい2週間でなくなっていた。毎日飲んでいれば今頃は治っているかもしれないとも考えられる。  僕は効くか効かないか見極めるまで、沢山の日数分の薬を持って帰ってもらうのは好まない。効けばいいが効かなければ申し訳ないからだ。先日ある勉強会に出席してそんな話をすると出席者らに驚かれた。僕にとっては当たり前だと思っていたのだが、どうもこの業界もカリスマがもてはやされるらしく、居心地がすこぶる悪かった。建前と実際が乖離した人ほど雄弁でほとんど自己陶酔しているのではないかと思うほどだ。  3日で勝負を繰り返さされて、少しずつ力が付いた。いわば育ててもらったようなものだ。いろいろな個性の人に巡り会い、色々なことを教えてもらい、幸せも哀しみも少しずつ分けてもらった。活気みなぎる町ではなかったが、平穏に生きるには打って付けの町だった。失うことが恐ろしいようなものは何も手に入らなかったし、手に入れることが恐ろしいようなことにも遭遇しなかった。山のあなたの空遠く幸いすむと人が詠めども、入り江に横たわる老いた木造船の臭いの中にも幸いはすんでいた。