買い物

 今日は午後から薬剤師会の代議委員会というものがあった。県下の薬剤師の代表が集まって予算を決めたりするのだが、交通費として5800円をもらった。会議の途中から、僕はそのお金で何かを買おうと思っていた。普段は滅多にほしいものがなく買い物はしないが、今日は何故か買おうと決めていた。薬剤師会館の近くに大きな本屋さんとCDショップと楽器屋が集まっている。会議が終わってからその3つを順番通りに覗いてみた。  欲しい物はCD屋さんにあった。一杯並んでいるもののなかで、ジャズのCDを1枚買った。明日から薬局で流すために。大好きな「テイクファイブ」が収められているものだ。会計をする時に驚いた。1800円だったのだ。僕が学生のころ確かレコードはLPで3000円以上していた様な気がする。僕のアパートの家賃が3000円だったから、1ヶ月分の家賃とレコードがほぼ同じ値段だったのだ。だから懸命にお金を倹約して半年に1枚くらいしか買えなかった。要はあまりの安さに驚いたのだ。これなら時々買いに来て、もう少し生活に潤いを持てばよかったと後悔した。僕の音楽人生は牛窓に帰ってきて止まっていて、いつまでも音楽は高額商品だったのだ。  楽器屋さんでは、中学生の女の子がフルートを吹きながら品定めをしていた。曲は分からなかったがとてもよい音色だった。若い男が、フォークギターを弾いていた。うまいものだと感心した。女子高校生が連れ立って、楽譜を探していた。遠ざかっていた光景に感傷的になった。学生のころ親しんでいた光景が蘇った。名鉄新岐阜と柳が瀬の間にある楽器店によく行っていた。 薬科大学に行ったが、覚えたのはタバコとパチンコと唄と抵抗だった。  青春は細い道を歩くのに似ている。バランスを崩せば簡単に滑り落ちてしまう。ただ落ちるところによって谷底まで落ちるか、叢に落ちるかだけの差だ。僕は幸運にも谷底までは落ちなかったが、叢ではすまなかった。今から思えば限りなく谷底に近かったが、何かに救われた。偶然か必然か未だに分からない。  又ギターを弾いてみようと思った。