血色

 今朝、7時半に家を出て、5ヶ所で5つのことをこなしてきた。その中のある場所での出来事。  数分前に僕を含めた数人と立ち話をしていた若い女性が、少し離れたところで気分が悪くなったらしくて、年配女性数人に抱えられるようにしてある部屋に運ばれるのを見た。僕はその場所から帰ろうとしてまさに玄関に向かっていたのだが、その光景を目撃してひき返した。畳の上にその女性は寝かされ、毛布をかけられた。血色を失い、手も足も氷のように冷たかった。吐き気を訴えたのか、女性達が気を利かせたのか洗面器がすぐに用意された。僕は、正しいのか正しくないのかしらないが、足の指を指圧して、それがすむと、足の裏を指圧した、10分位しているうちにその女性が気持ちよいと答えてくれた。僕はその言葉で回復するなと手応えを得た。その後10分くらい下肢のマッサージをしたところで気分がよくなり、丁度迎えに来た母親と交替した。  初対面の女性だが、彼女が精神病を患っていると立ち話で僕に言ったのだ。僕の職業を知らずによく言ってくれたと思い、彼女が患っている病気は、必ず治ることを知らせた。「治るといいです」と細い声で答えたのが耳に残っていたから、運ばれる彼女を僕は追いかけたのだろう。脈を取りながら、足を指圧するのは腰が今一つの僕には躊躇う姿勢だったのだが、全くそんな事は脳裏をよぎらなかった。苦しそうな顔をして、畳の上にえびのように転んでいる彼女の壊れそうな心と体を救って上げたかった。この世の中が彼女のような方ばっかりだったら、争いごとなんか決して起こらないだろうと思う。きっと、自分を殺して、他者を思いやり生きて来たに違いない。又彼女に会えるかどうか分からない。なんとか、名前や住所を探し出し、勝手に煎じ薬を送って、早い回復を手伝いたいと思った。その立ち居振舞いだけで、感動した男がいるってことも伝えたいと思った。