お年寄り

 お年寄りだから、忍耐強くあるべきなんか有り得ない。痛いものは痛い。お年寄りが、痛みで切なくて涙を流しても、その涙に若者との差はない。涙が若者に似合って、お年寄りに似合わないなんて有り得ない。痛みを消すために、入院してベッドに横たわるのが、お年寄りに最善だとは思わない。お年寄りにも家庭の中での役割があり、束縛のない生活が、痛みのある生活より優先することは多い。  今日、お嬢さんと一緒に来られたお年寄りが、涙を流した。笑いながら涙を流した。生きると言うことは、命が永らえることばかりではなく、生活が上質であることが大切だ。時間の長さだけでは測れない。僕は最近お年寄りのゆったりとした時間の流れに救われることが多い。欲望を卒業した人達特有の穏やかな顔つきが好きだ。「僕のほうがもらい泣きするではないの」と僕はごまかしたが、その痛みを少しでも軽減してもらえるように、頭の中では色々な処方が駆けずり回っていた。  立地のハンディーはあるのかもしれないが、僕はこの田舎で薬局を継いだことがよかったと思っている。人口が少ない分、生きていくために懸命に勉強して、効く処方を見つけてきた。善良なお客さんは僕を育ててくれた。僕しか出来ない事で、今までのお返しをしなければならないと思っている。笑いながら泣く人を、泣きながら笑う人になっていただくように。