包帯

 数日前の早朝、救急車がえらい近くでサイレンの音を止めた。僕はまだ寝ていて、布団から出るのが億劫で、様子を見ることさえしなかった。いつもの時間帯に起きて2階から外を見ると、回転灯をつけたままのパトカーのそばで数人がなにやらあわただしく動いていた。  実はその時の主役が、無事生還して、今日も包帯をもってやってきた。近所に住む老人で、早朝犬の散歩に出ていたのだが、道路を横切ろうとして、倒れたらしい。何故倒れたのか本人はなにも分からないらしい。自爆だと言う人もいるし、車が接触したと言う人もいる。救急車で病院に運ばれたらしいが、結局大きな包帯を頭に巻かれただけで帰ってきた。その包帯も髪の毛がない頭に巻いたからほとんどずれていて、役には立っておらず、新聞紙でおった甲を頭にかぶっているようだ。手にも怪我をしていて、包帯をかえることが出来ないからかえてくれと言うのだ。たやすいご用だからかえてあげるのだが、こんなチョットしたことが家族がいなければ出来ない。都会もそうだろうが、田舎も一人暮らしの老人が多い。皆不安を抱えて暮らしているのだろうが、口には出さない。戦争をくぐって、地獄と貧困を体験してきた世代は強い。失うものを持たない生活をしてきた人達は強い。人生足し算ばかりだから。以後の、引き算世代の人間たちがどの程度の生き様を見せられるのか非常に興味深い。