救急車

何時ごろだったか定かではない。でもまだ何処からも明かりが差していなかったから、どちらかと言うと深夜と表現する時間帯だったのだろうか。
 救急車のサイレンが、僕の家の前あたりで止まった。牛窓高齢化が進んでいる町だから、救急車が走っても不思議ではなく、近くで止まることも珍しくない。まして近所には、救急車経験者や予備軍が沢山いる。だからさして驚かなかった。頭に浮かぶ数人のうちの誰だろうと、起きているのかまだ寝ているのか判らない頭で考えた。どうやら僕の家の裏の人のうちのどなたかだったようだ。薬局と並行して走る路地を、足音が通り過ぎていったから。そしてその後結構時間を置いて、話し声が足音とは逆の方向に消えていった。その時間差で急を要する病人ではなかったと想像できた。
 僕は起き上がることもなく、勿論窓から外を眺めることもなく、急いで眠ろうとしていた。このところの自称過重労働で、体力に不安があったから、何としても睡眠時間を稼がなければと思っている。そして嬉しい事に結局はそんなに苦労することなく再び眠りに入れた。
 朝起きて自分のクールさを再確認した。家族と言う塀の中側でないのなら、あっという間に睡眠に入れるのだ。気持ちが昂ぶるのではなく、不安に駆られるのではなく、当事者の狼狽や不安をよそに心穏やかに眠れるのだ。冷酷、薄情、勝手、安倍