たいしょう

 ソファーにふんぞり返って、足を大きく開いて僕のことを「たいしょう、たいしょう」と呼んでも顔が笑っている。薬局ですごんでみる必要もないのだが、そうでもしなければ照れくさいのだろう。ダンプの運転手をしていたわりには、心は原付だ。50ccくらいしかない。特定医療疾患に指定された病気だから、ある時から自己負担が無料になった。いくら説明してもそれが僕の力だと信じきっているので、薬をとりにくるときには必ず土産を持ってくる。普段は自慢の農産物を沢山持って来てくれるが、今回はイモがニュートリアに荒らされたと言って、野菜の土産がないことの釈明しきりだった。その挙句何を出すのかと思ったら、百貨店で買ってきたお菓子を取り出した。それをお礼だと言う。いくら断わっても置いて行く。憎めない人とはこんな人のことを言うのだろう。田舎に帰った最高のメリットは、こうした人達に多く日常的に接することが出来たことだろう。仕事から帰って、畑に行き、バタンキュウで眠る。こうした日々を送ってきた人達に裏表はない。政治家や企業家やエリート階級にみる冷血な動機はない。だまされたって、だますことはない。夜は音が消える町。山の端に星が落ちる町。「たいしょう」がいてもよい町。