運転手

 信号機が何回変わったのだろう。行く当てもなく、僕は車列が交互に止まり、交互に進むのを見ていた。パトカーが2台、そこのけそこのけと、けたたましくサイレンを鳴らして交差点の中を突っ切った。又誰かが誰かを傷つけた。  こんなにすがすがしい秋の夜なのに、星が見えない。星を消す程に街を照らしてどうするのだ。消費の欲を照らすなら、この世の闇を照らせ。愛が届かない、闇を照らせ。  30年前、4年間僕はこの街で暮らした。なりたい職業も見つからず、ただ大学に行くことだけが目的で勉強していた。元々勉強は好きではないから、身は入っていなかった。まして何かの必然的な過程だと言う確固たる信念がなかったので、この街の鼓動さへ聞いてはいなかった。耳を澄ますことが当時出来ていたら、僕の人生も変わっていただろう。もう少しはましな物に。しかし、音がしても耳はそれを拾わなかったし、何かが動いても、目はそれを追うことはしなかった。誰の責任でもない、ただひたすら幼かったのだ。  金属同志が激しく摩擦を起こして路面電車が止まった。明るい箱の中に、希望に溢れる客は乗っていない。3代も続く運転手(?)にこの世の闇は見えない。光は闇があるからこそ光なのだ。