屋号

 国道2号線に出る近道を15分くらい走ったところに、嫌でも目に付く建物がある。建物の壁に大きく書いた屋号?がそのままだからひときわ目を引く。店名らしきものを他に見かけないから、やはりその文字が屋号かもしれない。ただ僕はお菓子をほとんど食べないから、ひっきりなしに車が出入りする様子を見ながらも、入ったことはない。
 今日初めて店内に入ってみて正式名が分かった。「日本一のお菓子売り場」と書かれていた。僕は勝手に今まで「日本一広い駄菓子屋さん」と呼んでいたが正しくはなかった。
 テレビで取り上げられたり、プロスポーツの応援をしたりしていて、知名度はどんどん上がって来ていると思う。僕の漢方薬を飲んでいる人が長年勤めていて、次第に有名になっていることが彼の口からも伝わってきていた。総合スーパーに引けを取らない、継ぎ足し継ぎ足しで拡大しているみたいに見える駐車場がいっぱいだった。興味本位でナンバープレートを見てみると、大阪や山口県のものもあった。確かに遠方からも来るんだと感心したし、駐車している車の多さと同じく、店内の人の多さにも驚いた。
 僕は、お菓子好きの方には天国みたいな空間に入っても、ほとんど興味を持てなかった。だから当初の目的を果たすべく従業員を見つけ、来週の秋祭りのお接待用の菓子セットを40人分リクエストしてすぐに店を出た。お菓子を見ることも手に取ることもなかった。僕は超例外だろうが、老人、中年夫婦、若い家族連れ、若いカップル、学生、中には若い男性の二人連れなど、みんながみんな笑顔だったような気がする。楽しいのだろう話し声がとにかくよく聞こえた。普段店舗の前を通るたびに、どうしてわざわざ駄菓子をこんなに沢山の人が買いに来るんだと不思議だったが、例えて言うならば、和太鼓の演奏が同時に10か所くらいでやっている空間に僕がいるのと同じくらい皆さん幸せなんだろうと想像した。さもないとみんながみんなあんなに楽しそうな表情をしないだろう。僕みたいに虫歯のことが気になるようでは、日本一広い菓子売り場に来る資格はない。
 プロゴルファーの渋野日向子がお気に入りの駄菓子で一気に火がついたのか、コツコツと努力してきたのが報われたのか分からないが、田んぼの真ん中にある「日本一」が、輝いている。

西谷文和 路上のラジオ 第151回 ふたつの特集。小出裕章さん「直ちにストップ!汚染水の海洋放出」・上脇博之さん「身を肥やす維新。その政治とカネを斬る」 - YouTube