終末時計

 そんな薬を作ったこともないし、要望されたこともない。長い間漢方薬を作ってきたが、初めてのことだ。
 もともとは膠原病ステロイドを服用していた。血液検査で境界辺りを行き来していたが、症状は立派な本物だった。漢方薬はそうしたときにお役に立てれるものがあり、2年くらい飲んだ後、境界値をかなり下回り、ステロイドからも自覚症状からも解放された。今では再発防止に煎じ薬を飲んでいるだけだが、今日来て「終活をする気が失せたから、終活が出来るようになる漢方薬を作ってください」と頼まれた。
 当初は痛みがかなりあったから、さすがに明るい表情ではなかったが、最近は痛みからも現代医療からも解放されているから明るい。その明るさで終活をすればいいと思うのだが、やる気が起こらないと言うことは、来るべきその時が自分の中で遠のいたのではないかと推察した。体調が悪い時にはどうしても気弱になるから、不幸は駆け足でやってくるように感じていたのではないか。だから終活にも気持ちが入ったのだと思う。焦りと表現したほうが正しいかもしれないが。
 ところがまるで終末時計のように、針が希望の方に動いたものだから切迫感がなくなりやる気が失せたのではないか。だとしたら良いこと。敢えて急ぐ必要もないし、わが身を鼓舞することもない。気力も体力も時間も味方につけて、毎日を謳歌してほしい。

偶成 - YouTube