気配

 薬局の裏にある事務室は、西側が近所の方の共同の駐車場になっていて、1メートル四方の窓は言わば「開かずの扉」状態。時々空気を入れ替える時に開けるくらいで、年中閉じていると言っても過言ではない。
 と言うのは、ちょうどその窓辺りが駐車場の出入り口付近に当たっているので、意識して運転手が横を見れば事務室の中まで丸見えになる。距離で言うと1メートルくらいか。
 昨日僕は空気の入れ替えのために、その窓を開けて何となく網戸越しに、駐車場とそれに連なる県道を眺めていた。すると丁度そこに1台の車が駐車場に入ってきた。速度を落として僕が覗いていた戸の前を何もないかのようにただ通り過ぎるだけと思っていたら、なんと至近距離で僕の方を振り向いたのだ。そして恐らく視線が合った。
 人の気配とはまさにこのようなことを言うのではないか。本来開かずの扉だから、そこを意識することなどないはずだ。僅か1メートルの戸の前を通過するのに1秒くらいはかかるだろうが、その時間に人の気配を感じ、視線を感じ、振り向いたのだ。いつもと何か違う景色があったと言うには小さ過ぎる戸だから、僕はむしろ気配ととった。
 人の五感って、まだ完全には退化せずに残っているんだと、ふとした経験で学んだ。

 

過敏性腸症候群、うつ病のご相談は栄町ヤマト薬局へ