退散

 会計が済んだ後、吹屋を見せてあげようかと言うから、別に興味はなかったが、駐車場の車まで付いて出た。もう定年退職しているはずだから、県内の小さな旅行を楽しむのはいいが、その楽しさの押し売りは迷惑だ。おそらくベンガラの街並みを楽しみに行ったのだろうが、ほとんど僕は興味がない。さすがに地元だから、地方局では時々取り上げられるが、チャンネルをそのままにしたことはない。
 そもそも、県の西部、緯度で言うと真ん中あたり。縁遠い所でもある。県の東南部の牛窓から言うと意外と遠いし、歴史や郷愁と言うキーワードに疎い僕には、実際の距離以上に遠く感じる。
 僕は写真かカタログでも見せられるのかと思っていたが、おもむろに後部座席から取り出したのは。1メートル以上ある細い袋だ。そしてそこから出したのがなんと「吹き矢」なのだ。何で車に吹き矢なんか積んでいるんだ、ややこしい。
 僕より1級上の人で、僕が薬局に帰ってから結構利用してくれていたが、年齢とともにお医者さんのほうが親しくなって時々しか訪ねて来なくなった。当時から体格の良さを生かして空手をやっていたが、それがおもちゃみたいな「吹き矢」?それも安全第一なのだろう、矢尻はパチンコの玉を小さくしたようなものでこれなら当たっても少し痛いくらいで済み危険ではない。的も発泡スチロールで作るから、十分刺さるらしい。
 「どうしたの?もう空手はやっていないの?」と尋ねるとさすがにやっていないらしく、吹き矢に変えたらしい。市内3か所に市営の競技場があり、そこを渡り歩いているらしい。年をとっても形を変えた格闘技が好きなのか?
 スポーツ?とコミュニティーの両立が出来ることを長所にあげていたが、前者には疑問を持った。ただ嬉しそうに話してくれる姿はすでに心の的を撃ち抜かれている。あの年齢になってこんなに無邪気に話したがるものに巡り合ったのは幸せだ。
 「上手になったら動くものを狙いたくなるから気を付けて!」と、退職組の的にはなりたくなかったので、吹屋から退散した。

 

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