抜き足差し足

 事務室裏の駐車場は、3階建ての1階部分で2本の太い柱で支えられている。事務所側は壁だが、3方が開放されていて、風はもとより雨も自由に吹き込む。天井は鉄骨がむき出しで、構造上の理由は分からないが鉄の棒が3か所×状に交差している。
 今日の午後、なんとも愛くるしい光景が見られた。交差している鉄棒の一つになんと16羽のツバメが止まっていたのだ。おそらく1メートル四方くらいの狭い範囲に止まっているから、10㎝間隔で鎮座ましている。
 駐車場では毎週一度、生協の荷物が運ばれ近所の女性たちが集まる。一昨日がそうだったのだが、その中で二人の女性が、「大和さんちの駐車場は涼しい」と口をそろえて言ってくれたそうだ。僕は冷房のきいている建物から直接駐車場に出るから「暑い」としか感じたことがないので、その評価がぴんとこなかった。しかし、ここのところ午後になると決まって、いく羽かのツバメが鉄の棒に止まっているのを見かけ始めた。僕が戸をあけて出ると急いで飛び立つが、ツバメがやってくる理由が、おばちゃんたちの言葉で分かった。直射日光を単に避けるだけでなく、おそらく実際に涼しいのだ。それをツバメたちはよく知っているのだ。
 今日はツバメの避暑地を侵してはいけないと思い、とにかく驚いて飛び立たせることだけはすまいと思った。郵送用の漢方薬を作るたびに、駐車場にある倉庫から紙箱を取り出すのだが、今日は戸はゆっくりと開け、歩くのは頭を低くして「抜き足差し足」で気配をなるべく消して行動した。すると僕の想いが届いたのか、一羽も飛び立つことがなかった。何度か紙箱を取りに出たが、毎回驚かせることはなかった。
 束の間の、それもたわいもないツバメたちとの交流だが、恐らく、我が家の店舗用の階段の奥で生まれたツバメたちだから情が移る。せめて至近距離でも驚いて逃げ出すことがないように信頼関係が築けないかなと難問に挑む。

 

https://www.youtube.com/watch?v=W7I6x82iY6o