難所

 一番の難所は45度くらいの傾斜があるのではないかと思う。なぜこんな不便なところの墓地を買ったのか、訪れる度に父が恨めしくなる。姉たちは、墓を移してと希望するが、なかなか法律をクリアすることが出来ずに、そのままだ。
 今日改めて見てみたら、墓地の南側の笹は、優に4メートルを超えていて、きっと見えるだろう海を見ることはできない。墓周りはさすがに母もきれいにしていたが、この笹だけは誰も手を付けれなかった。せいぜい2,3本を切って、短くそろえ、束にして持って帰るくらいだ。
 今日は恐らくベトナム人たちとの最後の墓掃除。だから8人が手伝いに来てくれた。ただ8人と言っても全員農家の娘たちで、ほぼ手作業で農業をしていただけあって、とても道具を使うのが上手だ。10時から始めて、午後1時には、南の海側の笹を全部刈り取り、高台から海が見えた。40数年通っているが、本土と前島との間の瀬戸の早い流れが眼下に見下ろせるとは思ってもみなかった。墓山でなかったら、家でも建てる人がいるだろう。両親がこの墓地を買ったときには。恐らく今日のように瀬戸の流れが見えていたのだろう。遠く、兵庫県の島も見える。
 僕はただただ麓に置いた車に束ねた笹を運んだだけだが結構きつかった。ただし、終始中腰で作業をしてくれた彼女たちの負荷はそんなものではないだろう。若い人の元気とベトナム人の純情を大いに見せてくれた3時間だった。
 これで最後の共同作業と思った瞬間、こみ上げてくるものがあった。20年という多くの時間を一緒に過ごした人たちとの別れだ。最終グループが帰国したら、もうこうした交流はなくなるし、僕自身もピリオドを打とうと思っている。僕の年齢に合わせた時計の針のスピードで暮らしてみたいと持っている。彼女たちの若さに合わせて、とてつもないスピードで過ごしていたように思うから。
 見える風景、見る風景も変えてみようと思っている。

 

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