「眠れない」くらい痒い。体験した方でないと分からない辛さだ。いつ砲弾が飛んでくるか分からない建物に隠れているウクライナの人の恐怖を想像できないのと同じだ。長年の症状で苔癬化した部分と、掻破して出血する場所が混在している。善良さが相談机越しでも伝わって来る。ぜひお手伝いしたいと思いながら、処方を考えた。
翌日来られて、眠れたことを教えてくれた。一目見た時に顔の赤みがかなり消えていたから何かいい変化が起こったのではないかと思ったが、体幹部もかゆみが抑えられて、眠りにつながったみたいだ。
半年くらい病院で漢方治療を受けていたが当然改善しない。この当然と言う言葉を敢えて使ったのは、ほとんど似非科学の世界だったからだ。今漢方薬の材料が高騰していて、経済的に飲めない人が多くいる。そんなときにおよそ根拠のない漢方薬が無駄に投与され続けられることが残念だ。保険で飲めるから患者さんはそんなに負担もないし、医者も効かなくても飲んでもらえる。ウインウインの国保障の壮大な無駄が行われている。
漢方薬だって薬だから５０分後には働く。そんな話をしてこれからのそのお医者さんとの付き合い方を考えた。患者さんが、どう対処されるか分からないが、弱い立場の薬局からしたら、ある禁句は口には出せない。
僕の先生も、その先生の先生も、現代医学をとても大切にされた。先生は薬剤師だが、先生の先生はお医者さんで超有名な方だった。古式豊かな診断より現代医学の診断をとても大切にされた方で、古代の診断法を金科玉条にしていたそれまでの講師の話についていけなかった僕を、初めて「腑」に落としてくださった。
それまでは、漢方は難しいと言うことだけを学んで、多くの会場を後にしていたが、「この知識を早く牛窓に持って帰って、あの人に試したい」と言う高揚感で会場を出させてもらったのが僕の先生だ。その日をきっかけに３０年以上先生に知識を頂き続けたが、一昨日僕の机の前に腰掛けてくださった方の為でもあったと、３０数年前の出会いに感謝だ。
あの出会いがなければ、自分の人生を肯定的には受け止められなかっただろう。分不相応の未練を抱いて人は生きていきがちなものだが、そして僕もまたその手のものと同居していたが、今は一切ない。年齢とともに欲しいものはなくなり、未練までなくなったとしたら人生が墨絵に変わる。空も海も森も空気も、そして人までが墨色になる。
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