黒装束

 ふだんより遅く起きたが、いつものようにマッサージ機にかかりながら新聞を読む。そのあと外を眺めると、黒装束の一団が、西の方から歩いてくるのが見えた。一様に服もズボンも黒色だから何かあったのかと思って見ていたら、7人ともよく知った人だと分かった。その中に妻もいた。要は近所の人たちだったのだ。
 僕はすっかり忘れていたと言うか、その気もなかったからぐっすり眠っていた。そういえば明日、年に一度の疫神社の掃除の日だと教えられていた。回覧板で回ってきていたのだと思うが、心ある人たちが朝早くから奉仕作業をしてきたのだろう。
 それはさておき皆さん黒装束。季節のなせる業か、はたまた集った人たちの年齢によるものなのか。おそらく一番若い人が60歳を過ぎたばかりの人で、そのほかは全員70歳代。いや80に届いている人もいたかも。
 この光景が田舎、日本の多くのところに点在している田舎の実情を表していると思う。もちろん若い人もいるが、おおむねそのような人たちは集団行動にはなかなかなじまない。だから家庭を代表して出ていくのはたいてい年長者だ。だから着る服も黒っぽいのが多い。なかなか鮮やかな色の服を切る勇気はないだろうから、どうしても無難路線になって行く。
 このあたりは10軒で隣組を構成し「十戸」と呼ぶ。実際には僕の十戸は11戸で成り立っているが、その中で単身で暮らしている家は5軒だ。半分近くが一人で住んでいる。住み人が長い間不在で朽ち果てていた家も2軒あったが、それは何とか譲ってもらってきれいに整地した。
 恐らく少ない人的資源で故郷を守っていくのは難しくなるだろう。人脈を辿って手を加えることが出来たのはたった2軒と1か所。個人の力ではもうこれ以上できない。
 戦後、国や不動産屋さんや建築会社の口車に乗って将来の巨大な廃棄物などを建てたりせずに、こじんまりと過ごすことが出来る小屋で人が生きてきたなら、こんなに町も荒れなかっただろうと思う。
 人生そのものが仮の宿みたいなのだから、それに見合った持ち物でよいはずなのに、揃えるより捨てるほうが数段難しく、皮肉にも生産的であるなどとは、思いもしなかった。
 焼却炉の見えない煙が地面に映す陽炎のように、薄っぺらい価値観よ消えていけ。

 

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