五平餅

 たぶん、おそらく、ひょっとしたら、初めて見たし初めて食べた。
 はじめ何がテーブルの上にあるのかわからなかった。というより薄く伸びた蒲鉾があると思った。ただし蒲鉾にしては大きすぎるし、板の上にあるというより、板を刺されていたから蒲鉾のようにも見えなかった。要は得体のしれないものだったのだ。
 妻がたれを塗り出して、甘い香りがした時にそれが餅だと気が付いた。餅だと分かって、映像か何かで見たような気がした。実物を見た記憶はなかった。「これ、お餅?」と尋ねると「ごへいもち」と教えてくれた。
 「ほう、これがかの有名なごへいもちか」と思ったのだが、実はこの「かの有名な」のところも全くあやふやで、どう有名なのかもわからないし、本当に有名なのかもわからない。そもそも僕が名前を聞いたことがあるから「有名」で、僕が知らなければ無名だ。根拠はほとんどない。
 インターネットで「ごへいもち」とは何なんだと調べてみると以下のような説明があった。そこで初めて僕が青春時代過ごしたあたりのものだと知った。だから、ひょっとしたら学生時代目にしたことがあったのかもしれない。ただし当時の僕が興味を持つようなものではない。食事ではないから貧乏学生にはぜいたく品だったはずだし、当時はまだ甘いものが特に好きということはなかった。甘いものを買うお金はなかった。あればタバコかコーヒー代に回す。
 興味の範囲が自分でも相当狭かったのだとこのことでもわかる。もっと、多くのことを経験すればよかったと今だったら言える。時間だけは無限にあった時代なのに。お金がなかったというより、好奇心がなかったのかもしれない。
 丁度五平餅を食べていた時に、階下から漢方相談の方が来られたから下りてきてと連絡がきた。溶けない巨大キャンディーだからいいけれど、時間とともに固くなりそうな巨大キャンディーだった。
 
五平餅(ごへいもち)は、中部地方の山間部(長野県木曽・伊那地方、岐阜県東濃・飛騨地方、富山県南部、愛知県奥三河地方、静岡県北遠・駿河地方)に伝わる郷土料理。粒が残る程度に半搗きにした粳米(うるちまい)飯に[1]タレをつけ、串焼きにしたものである。「御幣餅」とも表記する。

 

https://www.youtube.com/watch?v=74BUIi_KGEs