廃品回収

 古民家の草抜きを、雨上がりを利用して朝の7時半ごろしていた。普段なら茎の途中から切れてしまいそうな草でも、柔らかくなった土のおかげで、根っこから気持ちよく抜ける。青々とした一角が、やがて砂利に変わる。当初敷き詰められた砂利だったところが、草に負けて姿を消していたが、少しずつ盛り返してくるのを見るのは楽しい。
 しゃがみこんでいる背後からおはようの挨拶が聞こえたから振り返ると息子だった。本来なら既に仕事の準備に入っているだろう時間帯だからどうしたのかと思ったがすぐにわかった。廃品回収のため、担当の家々を回っているのだ。僕は挨拶だけして草抜きに励んでいたが、所々で近所の奥さんたちと楽しそうに会話している。
 奥さんと言っても田舎だから僕より上の人がほとんどで、中学校まで牛窓にいた息子にとっては、近所の優しいおばちゃんだった人たちだ。数年前に牛窓に帰ってきてから、我が家ではなく少し離れたところに住んでいるから、おばちゃんたちとも会う機会は少なく、おそらく会話などを交わしてはいなかったと思う。ひょっとしたら20数年ぶりの会話かもしれないが、楽しそうな雰囲気が伝わって来る。
 息子が就職してからほとんど会う機会はなかったが、ある時家族で食事をしたことがある。おそらく岡山に住んでいた息子が利用するレストランだったと思うが、その時に、ウエイトレスさんに対する態度がかつての息子とは違っていることに気が付いた。かつては、大和家の全員がそうであるように、もっと丁寧に、感謝の気持ちを表しながらサービスを受ける子だった。ところが僕には彼の言葉や態度が好ましくないように感じた。10年くらい前のことだっただろうか。
 大の大人だから気がかりなまま何も言わなかった。そしてその数年後牛窓に帰ってきた。
 牛窓に帰ってきてからは、祭りにも参加するようになった。古い港町の祭りで、男が化粧して女性の肌襦袢を着てだんじりをひきながら町を練り歩くのだが、かつて僕も初めて参加したときには結構恥ずかしく、酒でごまかしたものだ。昔女郎小屋がにぎわった頃の名残らしい。
 そして今朝の廃品回収。幼馴染が住む町で、かつて世話になったおばちゃんたちがいる町で、見るからに息子はかつてのような人格に戻った。飾らなくてよい町で、飾らなくてよい人たちの中で、自然体で暮らしているように見える。どうして牛窓に帰りたがったのか、どうして牛窓に帰ってきたのか、今やっと答えを見せてもらっているように思えた。

https://www.youtube.com/watch?v=gdp4plbMcT4