悲鳴

 ある老婆が処方箋を持ってきた。杖をついている。内容が痛み止めだったのでどうしたのか尋ねた。すると1か月前に草抜きをしていた時に、背骨が折れたそうだ。そういえば背中のある部分を境に急に前傾姿勢になっている。1か月前に骨折したというのに杖で歩いてこれるのがすごいと思ったが、骨粗しょう症の骨折だから痛みもそんなに激しくないのかなと思わせる。実際に経験してみないと分からないだろうが、痛みの感覚まで運よく老化してくれているのだろうか。そういえば母も介護施設のベッドから転落して骨折したが、本人の訴えと言うより、母の表情の変化で職員が見つけてくれた。痴呆が進んでいた母は痛いとは言わなかった。
 骨が折れた瞬間、背中で「ボキッ」と音がしたそうだ。今だから平静に言えるのだろうが、その時は驚いたと思う。不注意に中腰で草を抜こうとして負荷がかかりすぎたのだろう。毎朝草抜きに励んでいる僕は少しだけ想像がついた。膝を地面につけてやったほうがいいよと言えるのも、このところの経験による。5分もしゃがんでいると背筋が痛くなるのだから、90を超えた人には中腰は厳禁だろう。
 朽ちた建物、朽ちた橋、朽ちた車に、朽ちた食器。僕らの未来はいたるところに転がっていて、ボキッと今日も悲鳴を上げている。

 

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