定番

 最近朝の定番が一つ加わった。隣の古民家の庭の草抜きだ。イノシシが出るほど草ぼうぼう状態から、今ではかなりの部分に土が見えるようになった。これでは身を隠すことができないからイノシシも出ないだろう。
 夜勤を終えたベトナム人が帰ってこない間に草取りをするから、30分くらいの時間があるが、そんなにしたら腰が痛くて立てられなくなるから、10分が限度かな。それでも1m四方くらいの広さが草から土に代わるのを見るのは達成感があり楽しみだ。
 今日も、朝の日差しを浴びながらやっていると、遠くから市議会議員選挙の立候補者の選挙カーが近づいてきた。拡声器の音量全開で元気がいい。連呼する名前で誰の車かすぐにわかった。その方は普段僕の薬局を利用してくださっているが、僕の意中の人ではない。だから何となく顔を合わせたくないから車が通りすぎるのを奥まった家の陰になる所で待っていた。ところが声は大きく聞こえるがなかなか近づいてこない。会えば愛想の手でも振らなければならないから、それが嫌で通り過ぎるのを待ったのだ。
 声は東のほうから聞こえてくる。ただ、時間の経過とつじつまが合わない。路地の奥まで入って行って挨拶をしているのかと思うくらい時間がかかる。そのうち声が真反対の西のほうから聞こえてくる。僕の薬局の前を通らずにそこには移動できないから、不思議だなあと感じた。ただし、西には団地が広がっていて、そこを回っているならこの時間のかかりようは説明がつく。あそこは迷路みたいだから今のうちに薬局に帰ろうと思って古民家の道路際の庭に移動すると、なんと再び東から声が聞こえてきた。そこで気が付いたのだ。さっきから急に西から聞こえていた声は「やまびこ」なのだと。
 確かに僕のいた場所は南以外は丘に囲まれていて、声が反射して帰ってきてもおかしくない。ふつう叫んだりできる場所ではないから、大声でやまびこを楽しむ勇気はないが、拡声器で流れる音だとあそこまで声が反射して返ってくるのだ。
 やがて選挙カーが東からやってきて足早に西のほうに去って行った。うかつだった。もう少し早くやまびこに気が付けば薬局に帰れていたのに。この発見も、ためらいもなく大声を出せる所だったら小さな楽しみになるのだが、曲がりなりにも田舎の繁華街ではできない。声が返ってくる前に、パトカーか救急車が到着しそうだ。

 

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