看板

 最初に目に入った看板が「高齢者受講ご苦労様です」だった。教習所も高齢者を取り込まないと少子高齢化の時代にはやっていけないんだと思った。ついそんな、経済番組のようなことが頭をよぎる。
 ただし、すれ違うのは若者ばかりで、季節柄学生ばかりのように見える。看板につられてきているのは僕だけのように見えるが、実際に僕だけだった。
 県内で、唯一、そこの教習所が日曜日でも高齢者の受講を受け付けてくれているところだったから、これ幸いに申し込んで遠路訪ねたのだが、もひとつおまけに運がよかったのは、受講者が僕だけだった。場所がよくわからなかったので、余裕を持って家を出たのだが、意外と早く着いて、1時間待たなければならなかった。運転疲れもあってソファーでうとうとしていると、講師らしき人がやってきて一人だけだからもう始めましょうと言って、30分早く始めてくれた。
 いつものように講師は講義を始めたが、このいつものようにがおかしくて笑いをこらえるのが必死だった。いつものようには、席が10数個用意されているのだが、おそらくかなりが埋まるのではないかと思う。ところが大勢相手の言葉(複数形)を単数形に変えないから、滑稽なのだ。一所懸命聞いているふりをして、講師のプライドを傷つけないようにするのが精いっぱいだった。
 視力検査、動体視力、夜間視力なども機械で測ってくれるのだけれど、どうもあまりよくない。眼鏡を作り替えないといけないかなあと、眼鏡のせいにして老化を隠そうとしたら、講師がウエットティッシュと乾いた布を貸してくれてレンズを吹いてみますかと提案してくれた。眼鏡の汚れなど気にしたことがなかったので言われるがままにして、その後もう一度検眼してもらった。するとどれも基準を満たしていた。「眼鏡は洗わなければならない」自動車教習所で得た一番の教訓。
 多くの最新式の装備に守られているから、かつて習った運転技術がどのくらい退化しているのか心配だったが、意外と丁寧に運転できているらしい。これで数年乗ることもできるのかもしれないが、あと痴呆検査と言うものがあるらしい。「インターネットに出ていますから、予習しておいたほうがいいですよ」と講師が教えてくれた。誰にも言うのか僕だけに言ったのかわからないが、身につまされるような単語がしばしば発せられる。
 思えば今日が初めて、正式に高齢者として扱われた日だ。最後のコーナーを曲がった日だ。

 

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