家計簿

 僕は本人の下痢止めを取りに来ているのかと思ったら奥さんのだった。去年位から数か月に一度10回分ずつ取りに来る。
 今日初めて僕が応対したので、ご主人が奥さんが下痢止めを飲む理由を教えてくれた。80歳を十分すぎている方だが、アイスクリームが好きでいつも冷蔵庫に切らさないようにストックしているらしい。特に好きなのが湯船につかりながら食べることらしい。
 あの高齢で胃袋を冷やすものを食べたら下痢をしてもおかしくないが、ご主人にとっては奥さんの体調より10回分で1200円の現代薬が高い?ことの方が気になるらしい。奥さんにとっては1錠120円で下痢を止めながら好きなアイスクリームを食べることができるのだから安いのだろうが。
 こまめなご主人なのだろう。いったい夫婦二人でどの位1か月にお金が出て行ったか調べたらしい。レシートを全部ノートに3か月間貼り付けてみたらしい。すると22万円くらいで、およそ1か月8万円の出費らしい。これはすごく参考になる。リアル家計簿だ。田舎で夫婦二人が老後を過ごすのに一月に8万円あれば大丈夫なのだ。
 田舎の人はほとんど自分の家に住んでいて、野菜など自分で作ったりもらうことが多い。外食するような店も少ないから、自炊かコンビニ弁当だ。遊びに行くほどの体力もないから、出費のしようもない。8万円もあれば暮らせるのだ。ひょっとしたら僕だってそのくらいで暮らしているかもしれない。基本的には無駄遣いなるものをしないのだから。
 「湯船につかりながらアイスクリームを食べるなんて若者みたいで格好いいじゃない」と言ったのだが、慰めで言ったのではない。恐らく奥さんにとっては至福の時間なのだろう。そんな特別のこと、特別の時間がある幸せを感じたのだ。アイスクリーム1個分の幸せってどんなのだろう?